May 26, 2017

駐車場

天気がいい日の病院の駐車場を、腰の曲がったおじいさんが歩いていく。
多分家族に連れられてここにきた。おじいさんいは不似合いな派手なラインの入ったバンに乗り込んで、帰っていく。

腰の曲がったおじいさんは、病院に来るのにグレーのスーツを着ている。
近隣の町から来たのだろうか、家族の人たちもちょっとだけおめかししている。不思議だ。病院に来るということはどこかが故障しているということなのに、なんだか青い空の下、家族でお出かけしているような楽しげな雰囲気がある。
四角く切り取られた窓から、飽きることなく駐車場を眺めていると、いろんな形の家族や人生があるんだなと、しみじみ思う。

あの家族はこれからどっかに寄り道して、みんなで昼食を囲むのだろう。
おじいさんは、病気?
定期検診とかだったらいいな。そうして、今回も何事もなかったよって日々の暮らしに戻っていけるといい。そして、またスーツを着てお出かけ気分で家族で病院に来れたらいい。

帰る人たちを見てるのは楽しい。

看護婦さんたちは溌剌としている。毎日、毎日、いろんな性別、年齢の人たちの世話をして、一日中動き回っている。どんな気分なんだろう。仕事だからいろんなことは割り切れるのだろうか。私なんかは幼稚だから気に入らない人がいたら、話したくない。仕事と割り切れば、話せるんだろうか。
ありがたいことに、私は別に嫌いな人と無理して仕事をする必要はない。

そりゃあ、時々何言ってんだよって人も出て来るけど、要は健康体だからそこまでわがままじゃないし、ちょっと常識がないとしても百歩譲って普通の人たちだ。

網戸の網目って、何ミリなんだろう。

ポルシェだ。ガンメタの。誰だよ。先生なのか?
でも、駐車場のお金払ってるから、患者さんか、お見舞いの人か。
カレラ4だ。ターボじゃないな。
いいお天気だからドライブも楽しいだろう。

車と言えば、日本の車は綺麗な車が多いよね。どの車もある程度ちゃんとしてるように思う。劣化して塗装がはげてる車なんてそうそう見ないもんね。まあ、それが一応に普通で面白いような面白くないような気もするけど。

今度は年老いたご夫婦見つけ。
奥さんと旦那さん、どっちが病気なんだろう?
この二人はさっきの家族ほどウキウキしてない。きっとルーチンなんだ。別にどこかが悪いわけじゃなくて、お薬もらいに来たとか。そんな感じ。いつものこと。

スポーツタイプの車に乗ってるのに、駐車が下手くそな人見てるとイライラだ。そんなに切返さなくても入るでしょ。それだけ前も横も空いてるんだからさあ。

杖をついたおばあちゃんが、一人で来てる。看護婦さんが「ご家族の方は?」とにこやかに尋ねる。「誰もいなくて」
せめて「今日は誰もいなくて」と聞きたかった。今日も、明日も、入院中もいないんだろうか。だからと言って、私は何もできない。
心の底に小さな青白い火が一つ灯っただけ。

おばあちゃんのことを私は何知らない。名前すら。
どんな状況かも、なぜ一人なのかもわからない。

ただ「誰もいない」ということだけが私にわかったこと。
私よりおばあちゃんの方が、強いことを祈る。きっとそうだ。きっと。

もしも、すれ違うことがあったら、にっこりしよう。

それくらい簡単なことだ。

No comments: