その連作の全体像を見た時、なぜかカズオイシグロの「わたしを離さないで」を思い出した。私たちの時間とは違う時の流れの静かな世界の中で、子供達がクスクス頬を寄せ合って何か話している。
まだ、その子たちは自分の未来を知らない。周りの限られた大人たちに「君たちは特別な子供なんだよ」と言われて過ごしている。
そんな「特別な子供」でなくても、子供たちは程度の差こそあれ優しい世界で育つ。育ってほしいと思う。
ある日、その子達は「特別」の意味を悟る。仕方ないこととして自分に与えられた命を精一杯生きることにするのか、しょうがないからその時まで生きることにするのか、いろいろな生き方の選択をする。そのお話の中では子供たちの寿命は大人になる前に尽きてしまう。
「普通」の私たちにはそんなに極端な時間の少なさと選択が課せられるわけではない。だけど、本当はそう変わらない。時間は多分、長さではなくて密度なんだろうと思う。
別なものを描いているように見える作品が連作になった時、強烈な一つのイメージをこちらに与えてくる。遠くて近くてとても静かなのに、心がひどくざわつく。
いつまでも見ていたい。果てしなく寄せては返す波だけれど、同じ波は2度と訪れてくれない。絶対に捉えることのできない時が去来する。
学生さんたちにじっくり見てもらいたいな。こちらから眺めているだけだった目の前の海に漕ぎ出す前に。
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堤康将『好奇心』(沖学園高校・新校舎図書館に展示) |
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