ソムリエの人が(田崎なんとかじゃない)「ワインが絵画なら、ワイングラスは額縁のようなものです」と言っているのを聞いて、ふむふむと思った。
額装は読んで字のごとく、額で装飾するという意味があるのだが、作品を保護するという役目もある。版画などは適当な額装をしていると、日に焼けてカビが生えて茶色い点々がでてくる。
時折、地方の美術館などで展示している作品が、そんな目に遭っているのをみると、悲しくなる。
時には作品がマットからずれているのを、そのまま飾っているところもある。予算がないのか、気にしてないのか。
マットはただの紙の板ではない。安価なマットや昔のマットは作品の保存には適していない。ちゃんとした部類のあの紙の板は、ああ見えて酸性でもアルカリ性でもなく、中性に保つための弱アルカリ性なのだ。作品が長い時間をかけて酸化していくのを防ぐ働きがある。もちろん値段は雲泥の差だ。
作品をマットに固定するテープも全て作品に負担をかけないものを使う。もちろんアクリルも然りだ。
ある作家が、画廊の人から最近になって「作品を持ってくる時は、キブクロとサシバコで持ってきなさい」と言われたらしい。私はその話を聞いて嬉しかった。もちろん、余分なお金がかかるわけだけど、その画廊の人はその作家の作品を大切に思ってくれてるんだなあと思うし、長く愛してくれるんだろうなとも思うし、お客さんの事も気にかけているんだなあと。画廊の人もその作品自体に良さを見出していなければ、そんな事は言わない。まあその前に扱わないだろうけど。
(その作家は初めて会った時から、作品(タブロー)を劣化させないためにどういう顔料を使ったらいいか、どうやって保護したらいいか、一生懸命考えて話してた作家だから、心配はしてなかったけど。)
作品を、後世に残す、残さない は作家が決める事ではないかもしれない。でも、周りの人が「残したい!」と決めてくれるような作品を作れたら最高だと思う。でも、その時「あーあー、こんな保存の仕方してたから、この作品はどうしようもないなあ」ってなったら、非常に残念なことだ。
作品は生まれ落ちた時から、もしかしたらコレクターやお客様のところにお嫁さん(お婿さんでもいい)に行くかもしれない大切な子供だと思った方がいい。だから、可愛い子供に日焼け止めを塗ってあげたり、美味しいご飯を食べさせてあげたり、可愛いお洋服を着せてあげたりするような気分で、保存するという事を考えてあげた方がいいと思う。
ウォーホル作品がアメリカから届いた時、スペシャルエディションの作品なのに、ガムテープで止められていたのを見て卒倒しそうになった。速攻、やり直した。
最近、後に残るような作品というか、残したいと思うような作品を購入して額装する事が多かったので、ふっとそういう事を考えた。今でもそういう作品を額装する時は緊張する。作品を前にして、素手で触ったり、べちゃくちゃ喋る奴は到底許せない。飛ぶんだよいろいろ。それが一番カビの原因なんだ。
それにそういう作品達は、今は私が所有していたとしても、私が死んでも作品は残るはずだから、大切な次の世代への預かり物だと思っている。
それにそういう作品達は、今は私が所有していたとしても、私が死んでも作品は残るはずだから、大切な次の世代への預かり物だと思っている。
そうそう、ワイングラスの話だが、その番組で、いろんなグラスを紹介していた。再生ガラスの分厚いワイングラスや、柄がたくさん入ったコップ状のワイングラス。
最後にゲストとそのソムリエの人にグラスを選んでもらうとかいうことになった。
そのソムリエの人が選んだのは、薄いクリスタルの深いタイプのグラスだった。わたしは見ていて、良かった~と思った。リーデルなのかアンピトワイヤーブルなのか国営放送だから教えてくれなかったけど、形から見てリーデルかな。
他のグラスがどうこう言っているわけではない。ただ、口当たり的にも、香り的にも、良いワインになればなるほど、浅いコップで飲んでも美味しい訳がないからだ。ごめん。
フランスのカフェで、昼間っからとても浅いワイングラスに並々と注いだワインをすすってる方達は、それはそれでいいと思う。だって、あんまり良いワインじゃないものをワインらしく感じられるのは、浅いワイングラスだと思うから。適材適所。賢い選択だ。
作品もそうだ。
その作品に必要なのは、さて、どっちだろう。
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