ジンチョウゲ

私は、出会った人のことをほとんど忘れない。
いつも、思い出しては気にしてしまう。なのに、こちらから元気ですかと訪ねる事が苦手だ。というか、ほとんどできない。だからそんな人たちの元気な様子の片鱗でも受け取る事ができると、とても安心する。
ユキヤナギっていうんだろうか？朝、通って来る道に霞のようになびいている低い生け垣がある。つい最近まで緑色の目立たない生け垣だったのに先週の初めくらいから、白っぽく変わって来て、今では日に日に枝が伸び、真っ白な枝を気持ち良さそうにそよそよと。季節ってすごいな。っていう時は地球ってすごいなって言うのかな。いや、私には大きすぎてわからないから、木や虫や花や土や空気や雨やなんか、感じれる範囲くらいの、すごさでいいや。とにかくすごいや。
世界中で、いろんな事が起きている。でも、文字や映像でしかなにがなんだかわからない。今こうやっている時も、いろんなことのまっただ中にいる人たちは、どうにもならない思いを抱えて身動きとれないでいるんだろうな。
怒りや憎しみはどうやっても避けて通れない。そのうちそれは哀しみに変わって、なにも感じる事さえできなくなるのだろうか。
今、私の家にはほ乳類が増えていてTVを見る。
だから、私も横で見る。そういう情報がうそっぽいと思っていた私は、いっそ、全部嘘ならいいのにとも思う。だから、見るのが嫌だ。でも、真実がちょっとでも紛れ込んでいるとしたら、知らないじゃすまされない様な出来事もある。いろんな事を話しながら夜が更ける。
やりきれない思いを抱えているのは同じようだ。
寝る前に、テラスにでる。クロッカスやムスカリが咲いている。バラも自分の出番を待っている。お隣のお家の庭からジンチョウゲが香る。夜のジンチョウゲの香りは、たまらなく切なくその上幸せにしてくれる。
どんな時でも、できればそんな瞬間が、一日のうちのほんの何秒かでもその人たちにも訪れるといいのにと思う。人は、いろんな事で不幸になったりする。でも、ちょっとした事で幸せにもなれる。そんな気持ちすら忘れてしまわなくてはいけない様な事に、みんながなってほしくない。
そうならない様にとどまって、見つけてほしい。
本当にちっぽけでも。